小さな花がかわいらしい、日本固有種のツガザクラ
ツガザクラ(栂桜、学名:Phyllodoce nipponica Makino)はツツジ科ツガザクラ属の常緑小低木。本州(福島県から鳥取県)および四国(愛媛県)に分布しています。
花期は7-8月、高山の岩場で自生し、学名に“nipponica”がつくことからわかるように日本固有種です。
実はれっきとした樹木|ツガザクラの特徴は?
地面近く、かわいらしい花をつけるツガザクラ、特徴は?
名前は“ツガ”と”サクラ”から
名前の由来は、葉が針葉樹の「ツガ(栂)」の葉に似て、花が薄いピンクのサクラ(桜)色をしているから。
ツガザクラは背が低いので一見、草と思いがちですが実はれっきとした樹木。
樹高10cmから20cmで、低木の中でもさらに低い矮性低木(高さ30cm以下の低木)に分類されています。
枝先の茎に、釣鐘型の長さ6~7 mm程度のかわいらしい花を複数つけるのが特徴。花は横または下向き、ちょっとうつむき加減に咲きますが、花が終わると上を向き茶色の果実を付けます。
花言葉は「無し」
花言葉は「無し」、つまり花言葉が無い花。近縁種のアオノツガザクラは「内気・臆病」、エゾノツガザクラは「幸せを招く花」。
なぜ無いのかは定かではありませんが、本種のほうが花言葉が無いというのはちょっと不思議ですね。
よく似たアカモノやシラタマノキとの見分け方
一見、花の形でツガザクラと間違えてしまうアカモノやシラタマノキ。葉を見れば違いが一目瞭然です。
ツガザクラの葉は針葉樹のように細く密集していることが特徴ですが、アカモノやシラタマノキは2cmほどの楕円形で、全く違います。
果実を見ると、違いはもっと明確。ツガザクラは茶色、アカモノは赤い実、シラタマノキはその名の由来通り白い実をつけます。
近縁種もかわいらしい
ツガザクラの近縁種もかわいらしい花をつけます。
アオノツガザクラ
花が淡い黄緑色ですが、緑をアオという日本独特の文化からこの名前が付いたアオノツガザクラ。
分布は北海道から本州中部地方以北でツガザクラと分布が重なり、花期も同じなので、同時に見る事もできます。
エゾノツガザクラ
その名の通り、北海道(蝦夷)に多く咲き、東北まで分布します。花は赤紫色でとても鮮やか。アオノツガザクラと同じく湿り気のある岩場を好むことから、一緒に見る事ができ、両者の交雑種も見られます。
ツガザクラを見るならココ!
ツガザクラの自生地は高山の岩場が多く、登山を伴うところが多いですが、バスなどで行くことができる立山の室堂平や乗鞍岳の畳平など、簡単に行くことができるところも。
エゾノツガザクラ、アオノツガザクラの観賞地も合わせて紹介します。
立山/室堂平(富山県)
立山アルペンルート最高地点の「室堂平(標高2,450m)」では、7月頃、遊歩道の雪解けとともに様々な高山植物が咲き始めます。ツガザクラもそのひとつ。ツガザクラはライチョウの好物でもあるので、ツガザクラをついばむライチョウも、一緒に見る事ができるかもしれませんよ。
乗鞍岳/畳平(岐阜県)
乗鞍岳(標高3,026m)の登山口、乗鞍スカイラインの最高地点の畳平(標高2,702m)は、短い夏の期間にお花畑となります。
たくさんの高山植物が咲き乱れる中、ツガザクラもに負けずに咲いています。アオノツガザクラも一緒に見ることができますよ。
北岳/大樺沢の雪渓上部(山梨県)
国内2位の標高をほこる南アルプス「北岳(3,193 m)」は高山植物の宝庫としても人気。ツガザクラはいたるところで見られますが、大樺沢の雪渓上部から小尾根へ至る岩場やガレ場などでよく見られます。
月山/金姥の稜線(山形県)
花の百名山「月山」(標高1,984m)の金姥(かなうば、標高1,622m)と周辺のの稜線では、夏はお花畑に。たくさんの高山植物とともに、エゾノツガザクラやアオノツガザクラを見ることができ、たくさんの登山者が訪れます。
常念岳/常念乗越(長野県)
北アルプス「常念岳(標高2,857m)」はツガザクラやアオノツガザクラを多く見ることができますが、常念乗越(標高2,460m)も名所のひとつ。稜線の岩場のなどにたくましく咲く姿を見ることができます。
日光白根山/山頂付近(栃木県・群馬県)
関東以北最高峰の日光白根山(標高2,578m)。山頂と北に位置する「座禅山(標高2,317m)の間、岩場が多いルート沿いにツガザクラを多く見ることができます。7月が最盛期で、ほかにハクサンシャクナゲの大群落も見ることができます。
白山/観光新道(石川県・福井県)
白山(標高2,702m)の登山ルート「観光新道」は、花の観光新道とも呼ばれる高山植物の宝庫として有名。ツガザクラもそのひとつですが、アオノツガザクラも見ることができます。
大山/下宝珠越~上宝珠越(鳥取県)
中国地方の最高峰、単独峰の火山「大山(だいせん)(標高1,729m)」。登山ルート上の「下宝珠越~上宝珠越」あたりに、8月上旬ごろ多くのツガザクラが咲き誇ります。
銅山峰/一帯(愛媛県)
別子銅山の遺構が点在する銅山峰(標高1,296m)は、ツガザクラの分布南限。しかも、低山でありながら高山植物であるツガザクラが大群落を形成する特異な場所です。
それらのことから、2019年に国の天然記念物「銅山峰のツガザクラ群落」に指定されました。
なお、銅山峰のツガザクラの花期は他のエリアよりも早く、5月中旬から下旬です。
旭岳/姿見の池(北海道)
大雪山連峰の主峰「旭岳(標高2,291m)」。旭岳ロープウェイ「姿見駅」から散策路を歩いて20分程度の場所にある「姿見の池」周辺は、夏には高山植物のお花畑。その中に、ツガザクラの近縁種「エゾノツガザクラ」も咲き誇ります。
かわいいツガザクラに会いに行こう
色鮮やかで大きな花をつける、おなじツツジ科の花々に比べれば、ツガザクラはとても背が低く、花も小さく下向き加減の姿はとっても地味で、登山道を歩いていると見落としそうです。しかし、そのかわいらしい姿に心惹かれる人も多く、毎年、群落地には多くの人が訪れます。
あなたも、かわいらしいツガザクラに会いに行きませんか?