『Lost Worlds of the Guiana Highlands』

暑いですね、植物より先に人間の方がやられそうです。冷夏予報だったはずですが、去年より突発的に暑くなった分、つらさが増しているような気さえします。植物のほうにはまだ不調の気配はないのですが(不調が目に見えた時には手遅れでしょうか……)、これから二月は積極的に目をかけてやらねば、と思います。

去年の丁度今頃と同じように書籍の記事を書きたいなと。

『Lost Worlds of the Guiana Highlands』
ヘリアンフォラに魅了された人間にとって、ギアナ高地はやはり最たる憧れの地だと思います。Redfernから刊行されている『Lost Worlds of the Guiana Highlands』にはギアナ高地の様々な写真が豊富な解説とともに紹介され、読んでいると時間を忘れることもしばしばです。地上から数百メートルもの標高差、その上部では原始的なパイナップル科や食虫植物が数多く繁茂し、さながら別の惑星のようでもあります。コナン・ドイルが『The Lost World』に書いたように、恐竜の生き残りがいたとしても不思議でないような気さえします。真っ赤な岩肌の清流や、窪地に隙間なく群生するヘリアンフォラ、枯れ木の枝先に着生して花をぶら下げるウトリクラリアなど、好奇心に胸がくすぐられますね、人生で一度は、否、二度三度と行きたい場所。
それにしてもStewart McPherson氏はすごいですね。あらゆる地へ赴き、生態を調査し、第一人者として著作を発表する、マニア冥利に尽きるように思います。やはり羨ましいですが、それだけのバイタリティはなかなか真似できるものではないですね。
こういった専門書?っぽいような書物の英語はいかにも難しそうなイメージがありましたが、外国語話者に配慮しているのか、比較的平易(予備知識が助けている面もあるかもですが)でお勧めです。ネットでは知り得ない世界が広がっています。というか、どこかの出版社がRedfernの訳本を出してくれるのが一番なんですが……。

憧憬から、うちにもギアナ高地に自生している食虫植物がヘリアンフォラ以外にもいくつかおります(実はブラジルやGran Sabanaで採集した種子だったり、というのも少なくなく)。まだまだ小さく特徴の出ていないものばかりですが……

Brocchinia reducta

Brocchinia hechtioides
ギアナ高地の食虫植物でヘリアンフォラ以外といえば真っ先に出てくるのがこのブロッキニア属ではないでしょうか。ネギにしか見えないのですが、気長に育てていけばいずれはそれらしい姿に生まれ変わってくれるのではないか、と。食虫植物なのかどうかは正直怪しいような気はしますが、最近ムシトリナデシコやらトマトやらに食虫性があるとかないとかの議論が生まれているので、その辺りの垣根はすでに無くなり、食虫植物かその他かはグレーゾーンがつなぐ形になるんでしょうか。

Catopsis berteroniana
BCPから輸入した際におまけで付けてもらったものです(自生地のものとずいぶん違うというか、なんとなくC.morenianaっぽい感じですね)。小さな子苗がビニールパックにやたら沢山入っていたのですが、それを鉢に植えていると、一角がカプトシスだらけになってしまうので、とりあえずヘゴ棒に付けたものです。同じようなものが5.6個あり、いずれも一年ぐらいでずいぶん大きくなりました(成長記録の写真をまったく撮っていないので自己申告でしかないのですが……。そもそもカトプシスの成長記録なんてつまらないですし)。
根は水苔を包み込んでヘゴ棒のなかへと伸びてしっかりと植物体を支えています。
カトプシスの葉の表面を拡大してみました。昆虫がここにとまった際にこのクチクラの粉が剥がれて足を取られ、葉の隙間にたまった水に落ちるのだとか。疑心暗鬼だったのですが、最近、ここにくっついたまま死んでいるコバエを発見しまして(偶然でしょうが)、本当だったのかも……と思い直しつつありますw

Catopsis sp.Nicaragua
これはもう食虫植物ではなく、しかもギアナ高地産でもないのですが、カトプシスつながりで…。このサイズで成株という小型の種です。そのうち何らかの名前がつくと思います。
1cmくらいの黄色い花弁の花を咲かせます。こうして親株は枯れて、下からいくつかの子株が出て増えてゆくようです。自家受粉するのか、羊毛のような毛にまみれた小さな種子がたくさん取れましたが捨ててしまいました……。

Utricularia humboldtii
花の咲かないウトリクラリアです。生長も非常に早く、良く増えるのですが、開花株は葉のサイズがこぶし大だとか……。紫色の花ですが、他の大型ウトリよりも淡い色合いで、どうにか開花までこぎつけたいものの、夢物語といった感が強いですね。国内未開花だとか言われていますが、輸入が身近になった今、どこかでは咲いているのだろうと思います。
これはまた別の鉢ですが生育は旺盛です。上の写真はこれらから株分けし、大きめの鉢に柔らかく植え付けたものでして、どんどんサイズアップしています。金魚のように、鉢のサイズに合わせた生長をするのでしょうか。とすれば、こうしてやたら増えてゆくのはあまり好ましくないような気もするので、大きめの鉢に移してやりたいのですが……。
温室下段においてあるので、鉢底から伸びた根が受け皿にわずかにたまった水に広がりつつあります。受け皿に落ちた水苔が枯れずに育っているので悪い水ではないのかもしれないのですが、決してきれいでもないのでなんとなく心配です。ただ、まぁ多少の根であればたいした影響もないだろうと楽観視し、観察しやすく面白いのでそのまま水を絶やさぬようにしてやっています。
水の中に伸びた根はそこから大きく枝分かれをし、水中に捕虫嚢をつくるようです。光合成のためか葉のような組織もありさらに水面へ匙上の葉も伸ばしているので、着生種であり、水生種でもあるのが実感できます。ウトリクラリアの最大種だけあって捕虫嚢も5mmくらいと大きく感じます。

Utricularia campberiana
これは正真正銘ギアナ高地Mt.Roraima産(訂正;確認したところWei Tepui産でした。H.glabraと同じです)。真っ赤な美しい花を咲かせるのですが、その気配など微塵もありません。このままやがて溶けて消えてしまいそうな気がするので、生きているうちに記事にしておきます、これが遺影かもしれませんw とっても高かったのですが、たまたま懐が温かいがゆえに勢いで買ってしまった記憶があります。なんとかうちに居ついて欲しいものです。

*その他
これはU.nelumbifoliaが気中根を出していたのでそれとなくヘリアンフォラの方へ誘因したところ、自ら水分を見つけたのかぐんぐん潜ってゆきました。自生地らしくて面白いな、と思ったのですが、これ、抜けないんですね……。引っ張ってもずいぶんしっかり根づいてしまったらしく、移動が大変になってしまいました。


○     ○     ○     ○     ○


昨日、日本橋で開催されているアートアクアリウムなるものを見てきました。
夜中のナイトアクアリウムなるものらしく、幻想的で、あまりに極彩色ゆえ帰りの道中ずっと目がぼんやり。これだけ数がいると息も絶え絶えな金魚もおり、可哀そうかな、とちらり思いましたが、そもそも生き物を飼うこと自体……というありがちで根源的な問いに行き着き、何も考えずに楽しむのが一番だと一人合点しました。数百、もしかしたら千を超える金魚がいて、危篤が数匹の時点でマシなのかもしれません。個人的には植物が沢山植えてあってヤドクガエルが跳ねているような(アクア)テラりウムが好みなのですが、これはこれで楽しめました。

つらつらとずいぶん冗長な記事になってしまいました……。ここまでこんな駄文を最後まで読んでくださった方(いるのか?w)ありがとうございますw

コメント

  1. 私、McPherson氏は「ええとこのぼんぼん」だろうと思ってます。w あの若さでヘリを使ってテプイを廻るなんて普通思いつきませんし、できないと。いかんですねぇ、僻みですわ。w ブロッキニア、カトプシスも栽培経験ありますが、やはり食虫植物としてのおもしろみに欠ける、というのは予想通りで人にあげちゃいました。w 
    U.humboldtiiはグラスの背丈を追い越すほどの生長が開花には必要であろう、と。つまり3,40cm。U.campberianaは開花はしましたが、それだけでした。結実は遠い夢だろうと。
    日頃言ってるtこととは違いますが、U.quelchiiの花がみたいです。来年開花しないか、と密かに願掛けしてます。w

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    1. Mcpherson氏の年齢を調べてびっくりしました……!確かに、20代そこそこで大学で勉強しながら各国回ってヘリを飛ばしていた、というのは少々どころではない金持ちの匂いがします(憶測ですが助成金の出るようなタイプの研究ではなさそうですし)。食虫植物マニアが金持ちのなかに生まれて山々を調査してくれる、というのはありがたいような気もしますw
      ブロッキニア、カトプシスはブロメリアの中でも地味な見た目で、今でもたまに「何が面白くて育ててるのか」と思う時がありますが、定期的に自生地写真を見てモチベーションを保っていますw
      U.humboldtiiは3,40cmですか……。入手時点で10cm丈があって大きい株だと感じたのですが、それでもまだまだ幼苗中の幼苗ですね。ギアナ高地のウトリは写真で見る分には群生していて無数の花茎をのばして旺盛に見えるのですが、平地では高山ネペンよりも気難しく感じます。U.quelchii、うちのは微塵も咲く気配はないです……。

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  2. Balanced Aquariumを目指した者として言わせてもらえれば、そんなものアクアリウムと名乗って欲しくない、です。

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    1. balancedからはまさに対極にあるようなもので、アクアリウムというよりイルミネーションという感覚に近いですね、これはw 主催はちゃんとしたアクアリウム事業のはずですが、やは日本橋という場所柄でしょうか、以前行ったことのある筑波の水草展とは方向性がまるっきり違います。

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  3. ねぺんらんど2015年7月22日 18:28

    Stewart McPhersonから、今年の終わりか来年初めに、ヘリコプターでthe lost world of Mount Roraima や Angel Fallsに行くツアーするから興味があったら連絡してとメールが来ています。
    もしご興味があるようでしたら、ご検討ください。今回だけのツアーとのことです。

    昨年、2週間ほどStewart McPhersonと自生地探検とかしましたが、彼はとっても気の優しい、面倒見の良いひとです。お金持ちという感じではないです。TV局などに企画を持ち込んで、お金を集めて映像を提供しているようですよ。
    ちなみに、いまは、グリーンランドに探検に行っているそうです。

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    1. ねぺんらんどさん:
      「逢ってみたらすごくいいヤツ」というのは良くあることでして、私も決して悪いヤツだと思ってる訳ではございません、w 昨年来日時、万難を排して行くべきでした。w
      会長さんへひとつ質問を託したのですが、すっかりお忘れになったようで。ww

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    2. 写真に写るMcPherson氏の表情やYouTubeに公開されている動画から、彼の優しい人柄はうかがい知ることができるように思います。YouTubeのRedfernチャンネルの彼の動画はどれを見ても興味深いです。僕も昨年の来日時、お会いしたかったです(他の方の記事で来日を知る、という始末でした……)。現在はグリーンランドの探検をしておられるとのことですが、植物のみならず動物などの調査もされているのでしょうか。

      Mt.Roraimaへのツアー、非常に心ひかれるのですが、旅費の捻出が難しそうです。。。

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  4. humboldtiiは水耕栽培キットのような物で水浸しで育てた方が花が咲くような気が最近してなりません。ヘリアンの筒の中で育てた方が案外咲いたりして。。 humboldtii x alpinaやhumboldtii x quelchii等交配種であってもなかなか咲かないので困ります。

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    1. 水盤に根を広げてゆくのを見ると全然着生種という感じはないですね。仰る通り、水耕栽培キットなら良く根が伸びそうな気がします。記事のnelumbifoliaが筒の中で非常に早いスピードで根を張っているようで、ウトリとヘリアンの関係はかなりミステリアスです。
      > humboldtii x alpinaやhumboldtii x quelchii等交配種であってもなかなか咲かない
      そもそもhumboldtiiには開花しづらい性質があるんでしょうか。humboldtii交配種なら親譲りの大柄な草姿と交配種の容易さで楽しみやすいんじゃないかと浅はかにも思い、最近BCPのリストを眺めていたところでした……。

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